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【詩】My Very グラグラ

「彼の最初の恋人は客の消えるブティックのえじきに……」

 フラミンゴ男はよくそうやって噂された。でもそれは嘘だ。彼は知っていた、恋人は彼に愛想をつかして勝手に自分で消えたのである。
 店では楽しげな曲が流れていた、それで彼はダンスせずにいられないでいた。
「どうして踊らないんだ」フラミンゴ男は野次馬に向かって言った。「こんな楽しいのに!」
 ステップを踏むたび、彼の前歯が揺れた。ひとつだけ、ずっと乳歯だったのだ。それがここ数日のあいだに生え変わろうとする予兆を見せはじめていた。
 派手な格好をした女が歩いた。

 楽しい? いま、幸せなの?
 ラジオがガーガーいってる。
 だれも止めようとしない。

 世の中にはありふれた励ましの言葉があふれてるってね。昔、フラミンゴ男は思っていたよ「そんなくだらんことばかり」って……だけどあるとき気づいてしまった、じつはありふれたもののほうがずっとありふれていないんだって、なにより楽しいんだって。

 すごくまじめな人がいたとしよう。たとえば彼は右の頬を殴られると、左の頬を差し出してしまう。こういうやりかたってね、じつは憎しみの一種としてありえることがあるらしい。つまり、本当はこう言っておくべきだった「右の頬を打たれれば、つぎの一手にそなえなさい」って……何度も殴ろうとする人びと、その拳が飛んでくる……よけろよけろ、いつかおたがい馬鹿馬鹿しくなっちまうまで、よけつづけるんだ、ピンポン玉だと思って、必死に……。

 そんなのがいい。
 きっと馬鹿なやりかたが一番、楽しい。

 フラミンゴ男のフラメンコはたぶん世界でもっとも美しい遊びのなかで、とくにきわだって美しいものにちがいない。彼は自分でそう思ってる。そうでないなら踊る意味なんてあるだろうか、いや、ある……楽しければいい、なんだって。
 たとえばそれはドラマという形をとる。シアトリカルなギャグなのだ。まるで彼が世界の主人公になってしまったみたいな、そういう倒錯だ、それはおいしいウイスキーに似ている。
 あるいはきれいな虫などに。

My Very グラグラ

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【2014/05/06 21:18 】 | | 有り難いご意見(0)
【詩】何回だって死んでやるわよ

 雨ったらない。はるか上空から落下する鉱物なのだからね。頭に穴があいちまうよ。
 こんな真夜中に傘をさしてどこに行こうっていうんだ、もしそういう人がいるのであれば言ってやりたい。僕は部屋だ、明日のために眠っている。日がかわったらもう今日だなんて、なんてこった。俺はそんな気分じゃないのに、時間だけは待ってくれない。

 コングラッチュレッシィン。

  むかし、俺は事故って三途の川の畔で目を覚ましたことがある。そこにはよく太った器量の良い女でサラギンヌというやつがいて、やたらとカンカン踊りを踊りたがっていた。俺は手拍子をつけて囃してやったのだが、ときどきダンテもどきみたいな若い男がやってきては官能を非難するので、なかなか踊りがつづかない。俺はサラギンヌを哀れんだ。彼女は退屈の慰めに歌を唄って、渡し舟に揺られる男たちを励ましていた。俺は渡れなかった、どうしても踊りが観たかったのだ。
 そのうち夜になった。あの世に夜があるなんて、と思っているとサラギンヌがパンを差し出して「まだ半死なんだからね」と言った。「腹もへるでしょ」
 俺はすっかり忘れていた胃袋という臓器の存在について逆説的に考えると、彼女からパンをうばってくらいついた。うまい……! 
 サラギンヌは笑った。俺は彼女の笑顔を見るとつられて笑ってしまった。だって、彼女の顔はまるで泥のようにぶよぶよ動くのだから。

「どうして笑うんだい?」
「だってあんた、よかったわね。素直にそれを食べていなけりゃ、あんたは完璧に死んでしまってたのだからね。あんた、よかったわね」

 俺は生き返った。
 カンカン踊りはおあずけだった。

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【2014/04/29 03:18 】 | | 有り難いご意見(0)
【詩】俺がタイムマシン

 古風だ。
「時を浪費するなかれ、人生とはすなわち時なり」
 オールドファッションだ、ドーナツだ、すなわち虚空だ。

 一説によると宇宙の形はトーラス型であるという。朝食にあのシリアルフレークを食べていると、ときどきふとそういうことが思い出されてきて、それでは牛乳の部分は何物であるのか、宇宙の外側とは――あるいは人類、すくなくとも私に知覚できえぬよう思われる「外側」とは――なにを示しているのであろうと考える。古風だ、すなわち古い風だ……。

 時代が変わってゆく。たいらに成ってゆく。人びとはいよいよ人びとと呼んで差し支えなくなる。しかし最近ようやく気がついたことに、他人とはただ鏡なのであった。わからない人のことはわからないし、わかる人のことはわかる……という、あのWという哲学者の著書にも似通うところのある言葉を、今になって体感的に知ったのである。

 道を歩いていて、目に入らない人びとというのがある。それがドーナツの虚空に相当していて、ドーナツというのは自身であり、そしてまた自身を映す鏡たる人びとによって成るひとつの空間である。一説によれば、ということだけども。

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【2014/03/27 22:39 】 | | 有り難いご意見(0)
【詩】消えた記事、Internet problems

 くそったれだよ。書いていた記事が消えてしまった。ものすごくおもしろかったのに!

 昨日の早朝、雪のなかを歩いていて僕は不思議な虚無を感じていました。
 ぜんぜん人のいない街、遠くは雪で白く靄いていて、車もなぜだかあまり通らない。眠っているみたいなその朝……。雨とちがって、雪は音も立てないものだから。
 なにか大切なものを置き忘れてきたような、そんな感じでした。僕がそこで考えていたのは、「心臓をどこかに落としてしまった」という文句。不思議な焦燥、誰か踏み潰しやしないだろうか? 僕は忘れてきた心臓をドキドキさせて、しかし身体はそのドキドキを感じないのだ、そんな虚無感。
 しかし今、この虚無感にぴったり合致するよりよい喩えを見つけました。それは書いていた記事が突然消えてしまうような感覚です。本当に、ものすごくおもしろかったのに!

***
 
 って男のおもしろいはなしがあります。『ペイントレッド記念館』『ヤスデ性脳症』でF氏・ファーブル君のモデルにしたやつです。彼は実在していて、僕の古くからの友人だ
 小学生のころ、は車にはねられて一度死んでいた。心臓が止まったのである。しかし、それが救急車のなかでの処置で息を吹き返したものだから、中学に上がって僕と知り合うことができました。彼はすごい楽天家で、みんなから愛されていました。「どうせ一度死んでるんだから」と言って、目の前にある不幸をどんどんなぎ払ってゆくのです。テストの点とか、親や教師、そんなうっとヲしいものを次から次へとぶった切る。彼の「どうせ」は良かった。酒の肴になるような、愉快な自虐です。
 その当時、僕はオカルトや神秘的なものが好きでした(今もそこそこ)。それで臨死体験というのがどういうものなのか、ときどきと二人のときに問い詰めてみたのだけど、彼はいつも「寝てんのと同じさ」とニヤニヤするばかり。「なんてことでもないよ」と。
 寝てんのと同じ、寝てんのと同じ、寝てんのと同じ……? この言葉が正しいのであれば、僕は毎晩死んでいることになる。中学生といってもまだ幼かった僕は、なにか彼の言葉が恐ろしくてしかたなく、一時期眠れずに何夜かを過ごしたものでした。眠れない夜、それは死への恐怖が影のように意識にはりついて離れず、怯え震えのおさまらない、なんとも恐ろしい夜でした。

 どういうわけか多くの場合、人間は楽しかった日々よりも苦しかったり落ち込んだりしていた日々のほうを懐かしく思うものです。僕もそうでした。つい最近と久々に会ったときも、やはり不眠の日々が頭に浮かんで、それを彼に訴えて遊びました。
「お前のせいで、俺は眠れなかったんだ」
「それは悪かった。そんな気はなかったんだが」
 とは高校も同じだった。だけど彼は精神病を患って学校を中退してしまっていて、以来会うたびに暗くてジメジメした話を聞かされたものです。
 その晩、僕たちはの家でウイスキーを飲んでいて、ずいぶん良い気持になっていました。彼の陰湿な話もそのころにはおさまっていて、僕たちはふたたび臨死体験について語り合いました。
「実際どうなんだ? 一度死んでみるというのは」
「実際そうなんだ。眠っているのとかわりないんだよ。夢のない眠りさ。Pはそれで不眠になったと言うが、僕はまた違う点から臨死体験を見て、病んでしまったんだ」
 彼が言うには、「自分が死んだ」という意識はなかったから、周囲の人間が嘘を言ってるんじゃないかと疑っていたらしい。中高生なんて周囲の人間のほかには社会を知らないから、とにかく周囲の反応に敏感であるものだ。心臓が止まるなんて、経験するのは誰もが年老いてからのことなのであるし、それでは独り、不快で奇怪な人間になってしまったような不安を抱えていたのです。
 彼は語りつづけていると、しだいに目を伏せて声を弱々しくさせてゆきました。
「僕が死んだ? それなら今この現実こそ、死後の世界だろう?」

***

 くそ、ウイスキーが尽きそうだ。
 記事が消えて、僕はもう寝ずにここまで新たに書いたのです。疲労もひしひし感じはじめてきたし、このあたりでやめておかないとが万が一にでも知ったばあい怒るかもしれないから、やめておきましょう。実際その夜の終わりに、僕は彼のひどい怒りに曝されたのですから。
 これは〈詩〉に分類してますが、マジの事実なのでした。

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【2014/02/15 06:58 】 | | 有り難いご意見(0)
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